新しいパン屋とどっちつかずの出店戦略

作成日 2012年9月27日(木曜)
弊社関東支部の近所に、KSP(神奈川サイエンスパーク)という主に技術系のベンチャー企業および近所の大企業の関連会社などが安価で入居している大きな施設があります。こざっぱりしているが安い「KSPホテル」(ときどき川崎フロンターレと戦う相手チームが泊まってる)も中に入っており、さすが第三セクターの強みといった感じです。最寄駅への無料バスなども出ており、周辺住民には中々便利な施設です。ただ、中にある店舗の「出店戦略」に気を払っていないため、垢抜けない地味な印象がMAXな施設です。壁の色もくすんだピンクで素敵。
 
間借りしている店舗は、どれも押し並べてぱっとしないものばかり。飲食系は、多くのオフィスワーカーを抱えているため、昼飯をなんとかすれば大丈夫、という危機意識のなさに満ち満ちていて、KSPの外から多くの客が来て賑わっている絵は見たことがありません(例外はドトールぐらい)。飲食以外の店舗が分が悪く、書店も、花屋も、次々に店仕舞いし、数ヶ月ずっと空き店舗という状況です(例外は郵便局ぐらい)。で、潰れた花屋の後に入ったのがパン屋さん!が、マーケティング戦略が皆無で今からはらはらどきどきで、妻と気をもんでいるところです。
 
pic bread bucketまず、「天然酵母」を標榜しているのですが、それ以外にはあまり「ナチュラル」な要素がない。凄いハードコアな天然系施設(群馬かどっかにある)で作っている小麦を使っている、というパンフレットが置いてあるのですが、当のパン屋からは特にそれが感じられない。何より、ビルの中でオープンしてますし、パンをそこで焼いてないですからね。「天然」な匂いも何もありません。食べ物商売に関しては、「五感」以上に優れたマーケティングチャンネルはないと思うのですが、「これは『天然』!頭で理解しなさい!」と抽象的にやられても誰もうなずきません。
 
で、そんな中途半端なら、価格で戦うか?と期待するのですが、これまた中途半端に高いのです。これなら、ちょっとそこより小麦は上等じゃないかもしれないが、向かいにあるドトールの「ミラノサンド」を選びませんか?こちらは、曲がりなりにも(材料を積み重ねるだけですけど)手作りですよ、客のオーダーがあってから。一応それなりの匂いもします。そして値段も安い。店内で食べられる(あちらはそれも駄目)。負けは見えています。もっと言うと、そこから徒歩5分の場所にあるマルエツの中に、「手作り」のパン屋があります。味はむろん平凡ですが、「焼きたて」で「安い」です。
 
そして、くだんのパン屋さんの極めつけのブランド構築ミスは、その店名。フランス語らしいのですが、読めません。お買い上げ時のビニール袋に印字されているのですが、読めません。「なんとか…de…なんとか」。読めません。結果、口コミの際にどのように参照されるかと言うと、「あの、新しくKSPの中に出来たパン屋さん、知ってる?」、「あー、ドトールの前にあるパン屋さんね!」と、前者は「KSP」という地味な響きが、後者であれば、「ドトール」というまさに商売敵の名前を聞き手に植えつけるというとんでもない広告に。なかなか利他的なネーミング戦略ですね!
 
という訳で、恐らく早々に退却されることになるかと思われます。いま、妻と一緒に「いつ退くだろうか?」という話をしていますが、さすがにこれは分かりませんよね。途中で戦略を変えるかも知れないし、ネットショップなどを始めるかもしれない。未知数です。が、恐らく確かなのは、このままでは生き残れないでしょう、ということです。我々のようなパン屋素人から見ても。
 
本当にこのKSP、店舗の出店戦略がでたらめなんですよ。(過去の)入居ベンチャー企業ががんばって、上手にそのIPO前の株式を持って高いときに売り抜けるという戦略が功を奏し、類似の第三セクター施設の中では想定外によいインキュベーション成績を残している、と、随分前の日経産業新聞に書かれていました。それは事実でしょう。研究棟にこもって開発しているタイプの企業ですから、関係ないですもんね、地味とか、パンの匂いとか。そもそもリテールじゃないんですから。顧客は法人です。でも、店舗商売は顧客はリテール、つまり個人客ですよね。まずいなぁ。
 
事実、1年ぐらい前に撤退した書店がそうでした。薄く幅広い品揃え。幼児向けの絵本から、辞書の類まで、ターゲットがどこに向いているかさっぱり分かりませんでした。もちろん、ちょこちょことは売れるのですよ。私も子供に2回ほど本を買いました。でも、ここは溝の口。あの日本一のチェーン系書店である「文教堂」の本社があるところでっせ!?オタクなフロアや文房具フロアまで常備した本社ビルが、徒歩10分もしない間にあるわけですよ。しかも、KSPからだと最寄り駅の方向に!故に、仮にこの退却書店が思いっきり「専門分化」して、例えばIT関連の書籍ばっかり置いたとしても、勝算はなかった気がします。もう一ひねり要ったでしょう。
 
色々な意味で、「色のついていない」、「汎用的」な、「絶対必要」なチェーン系の、金太郎飴みたいな店舗が勝つんではないんでしょうか、こういう場所では。で、実際に、余裕で勝ち残っている面子は、ドトール、郵便局、セブンイレブン。うわぁ、画一的。sexyさ皆無。でも、必要。火を見るより明らかです。では、このKSPの代わりに出店戦略を練るとしたら、あなたは何の店を出しますか?
 
付近の住民をコアターゲットにするかどうか、KSP入居企業のワーカーたちをコアにするか、でも、また随分と変わってくるでしょう。が、例えば「画一化したサービスで押す今風のマッサージ屋」なんて受けるかも知れませんね。実は既に東急溝の口駅の改札内に「てもみん」があるのですが、上手く住み分けられそうな気がします。
 
サラリーマンが帰路に着く前に(無料バスを利用する人が多い)、15分程度で格安マッサージ。または、残業が決まった後に、コンビニで夕食を買い出すときについにで30分マッサージで疲れを取る。あるいは、駅から来る無料バスがどかどかと下ろす付近住民の疲れた会社員が、家に帰る前に30分程度。需要は意外とあるでしょう。
 
「場所がいい」とは言いますが、あの手のビルってのは特殊な環境でもあります。確かに人の足は多い場所ですけど。よって、理想的には、KSPがきちんと出店戦略を持って、それに合わせて入居希望の店舗を選り分けないといけません。これで、あの…えー何とかDEなパン屋さんが退却したら、半分ぐらいは大家さんに責任があるような気がしますよねえ。「インキュベーション」施設なんですから、もっと柔らかい発想でマーケティングできるような力も抱えておいた方がいいのでは…と思います。周辺住民としては。
 
ということで、マッサージ店舗をチェーンで展開している方がもしこれを読んでいたら、パン屋さんの跡地にどうですか?試す価値はありそうです、まぁ事前にマーケティング調査やら何やらをしないといけないでしょうけど。でも、トライする価値はあるかも知れませんね。
 
あ、最後にひとつ。もし出されるなら、お店の名前はフランス語でなくて、できれば日本語でお願いします。
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