世界有数の観光地は世界最悪の勤務地なのか?
とても興味深い結果です。世界で知られる都市の「観光地としての人気」は、必ずしも海外赴任組にとっての住みやすさと比例していないという結果。分かってはいましたが、なかなか鮮やかな結果ですね。
パリもローマも、外国人勤務者にとっては根こそぎ「働きにくい」都市になります。調査が行われたのはexpat(主にホワイトカラーの外国人勤務者)御用達のサイトですからsampling biasがありますが、広く1.2万人に尋ねています。
もちろん東京も「働きにくい」都市の1つです。パリもローマも香港も同じなんですけど、観光客というものは、「非日常」を求めて観光地に押し寄せます。つまり、そもそも「長期的に仲良くしたい土地」かどうかは別物です。「たまに来るぐらいがちょうどよい」と言ってもよい。
特に、日本は「世界のどことも違う」という認知を国外では持たれがちで、よくも悪くも、「すばらしき辺境ガラパゴス極東の地」として、トップ観光地です。プラス、経済的な面からも、まだexpatが働く機会もそれなりに発生するのが東京です。経験者が多いので、暮らしにくさにもランクインするでしょう。
ただ、気になることがある。高い給与で知られるシドニーやバンクーバーやシンガポールが、(当たり前のように)生活コストも高いため、その点で「住みにくい」ランクされることは分かります(それでも「給与が高い」強みは残りますが)。でも、円がべらぼうに安く、経済の勢いが減少している東京はむしろ「物価はそこまで高くない」部類に入るのに(この点をまだ把握していない昭和脳な日本人が多いが)、expatには「住みにくい」判定をされていることが気になります。
高い給与に引き寄せられて諸々は妥協して来たexpatは、その給与すら出せない国にはさらに来なくなる。給与うんぬんを置けば、今もなお指摘される「鎖国的メンタリティー」が理由の1つでしょうね。
比較的文化的かつ裕福なexpat外国人~そこに「極めて優秀」が加われば最高ですが~が暮らしやすい場所は、多様性の高い、国外と繋がる安定的な経済/貿易/学術/文化エコシステムが育ちます。これは、国内エコシステムより遥かに規模が大きく余裕があり、内外イノベーションの土壌になる。
21世紀においては、いかに国内外の優秀な人材をダイナミックに混ぜて国内外の市場でプレゼンスを発揮するかが重要ですから、この視点でのまちづくり・国づくりを考えることは戦略的です。
インバウンド観光収入だけでびっくりするぐらいの上がりがある場合は、「住みにくくても『観光地』として最高だからいいだろう」と高を括ることもできるでしょうが、それだと、長期的で国際的、かつ定期的な人と財の循環が起こらない。「貧乏になりつつあるただの観光立国」では、観光すら落ち込むでしょう。発想の転換時期です。
(img source: UnsplashのHumphrey Mulebaが撮影した写真)
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